MedTech Angels

MedTech Angelsとは何か①
1年後の「さらなる挑戦」を語るiSurgery佐藤氏

人と人とのつながりがビジネスを加速

プレモパートナーは、2023年5月25日に「MedTech Angels Demo Day」を開催。昨年に続き2回目の今回も、医療関係者、投資家、事業会社などが300人(会場100人、オンライン200人)が参加しました。6社のスタートアップが新規事業を紹介し、このなかから最優秀賞を決めていきます。その発表に先立ち、MedTech Angelsの昨年の最優秀賞を受賞したiSurgery株式会社、佐藤洋一代表取締役が、終了後1年間の活動を報告しました。聞き手は、昨年MedTech Angelsで同社のメンターを務めた杉本宗優。その全容を紹介します。

「戦略を考える」難しさと醍醐味

MedTech Angelsで発表してから、1年余り。最初に、事業の概要を教えてください。

佐藤氏: わが社の概要を紹介します。現在、骨粗鬆症治療が必要な対象者の8~9割は未治療で、検査を受診できていないことが課題となっています。人間ドックなどで胸部のレントゲン検査をする人は多いのですが、骨粗鬆症となるとハードルが高くなる。そこで、すでにある胸部レントゲンの撮影画像を二次利用して骨粗鬆症を判定していくというのが弊社のコンセプトになります。

受診者にとって検査という2度手間を省き、心理的ハードルを下げて、骨粗鬆症患者の発見に努めるためのプログラム医療機器です。

MedTech Angelsを修了してからの1年、製品の上市にこぎつけられたのも、ここでの学びと支援があればこそだと思っています。5月中旬に中間発表も行いましたが、現在は自治体や医師会と協定して実証実験フェーズに入っており、患者の発見率の飛躍的向上と医療費・介護費の削減効果が非常に大きいことが見込まれています。

この1年余りで、資金調達、医療機器の薬事認証取得を行いました。
外部からは瞬く間に取得したように見えましたが、実際にはご苦労も多かったと思います。

佐藤氏: 今年度のピッチイベントに参加したスタートアップも、VRやAI関連の医療機器が多いと聞いています。こうした企業において、最先端技術と臨床現場とのバランス、つまり「戦略を考える」のが難しいところ。その難しさがあるゆえに、醍醐味でもあると思っています。臨床的な意義は十分にあっても、現場で使用されるためには、薬事の認可取得ができていて、保険も取れていることが求められます。

この医療機器特有のマイルストーンをクリアすることで投資をしてもらうわけですが、投資に見合ったコストをきちんと回収できるビジネスモデルが描けているか。上市後も利益を生み出すか。全体的なバランスがよく、戦略としてイケているものを描けていなければ、世の中には出ていけません。ですから、そういう意味ではアイデアがたくさんあっても、ここから世に出せるものを探し出し、それをロジックとして組み立て、事業化に移すことが最大の難しい点といえましょう。

現在認証を取られたところだと思いますが、今後臨床試験、保険収載などのステップを踏まれると思います。製品化へのステップとして、どのような視点で検討されていますか?

佐藤氏:製品化の方法として考えられるのは、1つは完成形のものをつくってから世に出すのか、2つめは世の中の反応を見ながらプロダクトを育てていく、という方法がありますよね。

私たちのビジネスは、AIという新しい技術を取り入れていますので、スモールスタートのスタンスをとりました。なぜなら、AIを取り巻く価値観は多様で、社会からの信頼を勝ち得るものなのか。まだまだ不確定なところが多くある。そこでスモールスタートを行い、世の中の反応を見て、事業の精度を上げていく。その都度、追加の資金調達を行い、薬事を通していくという戦略を取り、まず認証を取りました。

会社が動き出すと新しいメンバーも加わっていき、組織が大きくなると、別の苦労があるのではないですか。

佐藤氏:実際にチームを増やすことの難しさを、日々実感しています。自分でやれることには限界があって、どこかで誰かの力を借りないとならない。では、どうする? フリーで募集するのか、誰かに紹介してもらうか。どちらにしても、人のつながりの大切さを感じてはいます。しかし、まだ正解は得られていません。

佐藤さんのビジネスは、患者さんのQOL(生活の質)向上や健康寿命の長期化といったことにつながりました。このような骨粗鬆症におけるイノベーションは、世界的な課題ともいえます。今後は、海外展開を考えていますか。

佐藤氏:すでに東南アジアとアジアのある国でフィージビリティスタディを実施しています。現地からデータをもらい、このAIで使えるかどうか、その実現可能性について検討中です。そして、現地で展開する組織や団体と、今後の方向性を探っています。

しかし、事業化においては、日本を先にやるとか、海外が先だとか、そういった考えは持ち合わせていません。ただ、日本特有の保険償還を取得しなければならない。これが、制約になっていることは確かです。そこで、日本と海外では市場展開するまでのタイムライン、時間の進み方が異なるので、最初から両方を視野に入れて進めています。

医師として、経営者として

ご自身のキャリアについてお聞きします。順調にドクターとしてのキャリアを積まれて、さらにビジネスリーダーという大役をこなすことに、逡巡はありませんでしたか。

佐藤氏:医師である以上、重要なのは「臨床」であって、患者さんと向き合うことだと思っています。ビジネスのアーリーステージでは、ドクターとインキュベーターとしての併用は十分にあり得ます。ある程度の先が見通せるまでは、このスタイルが一番なのではないでしょうか。

私は会社を立ち上げてからの2年間、臨床をやりながら事業もやりました。1週間を昼と夜の14コマに分けて考えました。そのうち、病院で働いているのは5~6コマ。そのほかの8コマくらいは、仕事に邁進できる。医師と事業会社の両立をしながら、どちらかで道が見えたら、そちらへシフトする。2倍頑張れば、2つのことができるものなんです。答えが見つかるまでは、ドクターとビジネスの併用がよいと考えています。

ドクターでない人がリーダーである場合の強みというものも、あるのではないでしょうか。

佐藤氏:医師として、病院や学会、医局などの閉じたネットワークのなかから得られる情報は重要な役目を持ちます。もちろん、それは組織のトップである必要はないのですが、代表が医師であることの訴求力は大きいかもしれませんね。

最近では、医師や医療従事者による創業が数多く見受けられます。起業家同士のネットワーク、コミュニティーが自然発生的にできていると、漏れ聞いています。

佐藤氏:医師の起業家ネットワークがあるわけではありません。点と点がつながり、拡がっていくようなものではないでしょうか。そうしたつながりの場で、経営や医師としてのキャリアなども話し合ったり、先輩経営者には相談したり。人とのつながりだと思います。

もし、どなたか相談したいことがあれば、私にご連絡ください。人と人をつなげることもできます。こうしたことが、解決に導いてくれるものと思っています。

MedTech Angelsのサポートが終了し、ますますドライブをかけていくために今後は何が必要でしょうか。

佐藤氏:ビジネス出身者でない者が困ったとき、人に教えを請うのは恥ずかしいことではありません。必ずや、人と人とのつながりのなかで解決策が見つかるものです。そして、人に頼ってお世話になった後は、恩返しをすることが基本であり原則だと思います。

ますますのご活躍を祈念します。ありがとうございました。